昨今、退職代行サービスに対する批判的な意見が依然として散見されます。 ホーム
その論調は、「人の弱みに付け込んで金儲けをする業者は許しがたい」といった感情的なものから、「退職代行を利用した者は、再就職の際にその事実を告知すべきである」といった倫理観に訴えかけるものまで多岐にわたります。
これらの批判を踏まえ、本稿では退職代行サービスを提供する主体を分類し、それぞれの業態について考察を深めたいと考えます。
一般的に、退職代行業者は「一般業者」「労働組合」「弁護士」の三つに分類されることが多く、この分類は利用者にとっても理解しやすいでしょう。
歴史ある専門家:労働組合と弁護士
労働組合と弁護士は、いずれも長い歴史を持つ専門家集団です。
労働組合は、労働者の保護を目的として労働組合法によって団体交渉権を認められており、会社は正当な理由なくこれを拒否することはできません。
退職に関する交渉は、主にユニオンと呼ばれる形態の労働組合が担っていますが、退職代行サービスが注目を集めるまでは、その存在は一般にはあまり知られていなかったかもしれません。
会社側からすれば、見慣れない労働組合から突然連絡が入れば、警戒心を抱くのは自然な反応でしょう。
労働組合が法律に則って退職交渉を行うことは全く問題ありませんが、再就職先の企業が、応募者が労働組合員として団体交渉を行ったという事実をどのように評価するかは、その企業の判断に委ねられます。
もちろん、この点を理由に不当な扱いをすることは適切ではありません。
一方、弁護士は、退職の意思表示に際して電話連絡よりも内容証明郵便を用いることが多いと考えられます。
これは、証拠能力が高く、相手に心理的なプレッシャーを与える効果も期待できるため、弁護士が得意とする手法と言えるでしょう。
ある日突然、弁護士事務所から内容証明郵便が届けば、会社側は驚きを禁じ得ないかもしれませんが、その内容はあくまで従業員の退職希望を伝えるものです。
多くの企業は、弁護士が介入したとなれば、事態を複雑化させることを避け、円満な退職手続きへと移行するでしょう。
しかし、もし会社が強硬に退職を拒否する姿勢を示した場合、それは法的な紛争へと発展する可能性が高まります。
そのような状況下で弁護士が介入するのは当然であり、これを非難するのは筋違いと言わざるを得ません。
行政書士の役割:事実証明という選択肢
ここで、行政書士の存在にも触れておくべきでしょう。
行政書士も、依頼者の意思を代書し、内容証明郵便として会社に送付することができます。
弁護士との大きな違いは、行政書士が作成できるのは事実証明に関する内容証明であるという点です。
雇用契約の解除は、労働者の退職意思表示によって法的に成立するため、退職の意思を伝えるという目的においては、事実証明の内容証明でも十分に有効と言えます。
さらに、弁護士が法的な解釈を加えて内容証明を作成できるのに対し、行政書士は事実に基づいた文書作成に特化しているため、費用面で大きなメリットがあります。
また、行政書士は依頼人名で内容証明を送付するため、第三者が介入しているという印象を会社に与えにくく、退職代行サービスを利用したという認識を持たれにくいという利点もあります。
したがって、弁護士や行政書士による退職支援は、長年行われてきた業務の一環であり、非難されるべきものではないと考えられます。
一般業者の課題:法と実務の狭間で
一般の退職代行業者は、退職という潜在的なニーズに着目した点は評価できますが、その業務内容は法的なグレーゾーンに位置しているという印象は拭えません。
法律上、一般業者ができるのは、あくまで依頼者の退職意思を会社に伝達することに限定されます。
もし会社が「本人からの連絡でないと認めない」と主張した場合、一般業者はそれ以上の交渉を行う権限を持ちません。
そのような状況下で、一般業者がどのようにして退職を成立させているのかは、必ずしも明確ではありません。
非弁行為に抵触しない範囲で、独自のノウハウを駆使しているのかもしれませんが、そのプロセスは透明性に欠け、利用者に不安を与える可能性も否定できません。
この点が、一般の退職代行サービスに対する批判の根源にあるのではないでしょうか。
まとめ
本稿では、退職代行サービスを提供する主体を分類し、それぞれの業態について考察してきました。
労働組合や弁護士、行政書士は、それぞれの専門知識と法的根拠に基づいて退職を支援する正当な役割を担っています。
一方、一般の退職代行業者は、その法的立ち位置が曖昧であり、今後の法整備や業界の健全化が求められると言えるでしょう。
退職代行サービスの利用を検討する際には、各業者の特性を理解し、慎重な判断が求められます。
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